
弊社が先日公開した「サイバーセキュリティ業界におけるキャリアの歩み方【5つの職種と必要なスキルも徹底解説】」の記事内でもご紹介したように、情報セキュリティに関する環境は「脅威そのものの深刻化」と「脅威を受ける対象分野の拡大」という2つの軸で変化を遂げています。例えば、元々サイバー攻撃のターゲットは大手メーカーをはじめとした民間企業や官公庁が中心でしたが、近年は教育機関を狙った攻撃の急増も話題となっています。パロアルトネットワークスが発表したグローバルを対象とした調査「クラウド脅威レポート2021年版」では、2020年の第2四半期(4~6月)に高等教育機関に対するセキュリティ被害が前年同期比15%増加していることが明らかになりました。
このことから情報セキュリティの専門家であるセキュリティエンジニアを中心としたサイバーセキュリティ業界への関心、そしてサイバーセキュリティ人材のニーズが高まっていますが、その一方で情報処理推進機構(IPA)は、国内のユーザー企業において情報セキュリティ人材は約8万人不足していると発表しています。つまり、当領域における専門的な知識やスキルを身につけることで、サイバーセキュリティ業界でのキャリア形成は比較的容易に始められるということにもなります。今回は、これからサイバーセキュリティ分野を学びたいとお考えの方へ向けた、おすすめの国内・海外のサイバーセキュリティ分野の大学や大学院のコース、そして社会人でも学べるプログラム職業実践力育成プログラム(BP)認定制度について解説していきます。
サイバーセキュリティ関連の職種をおさらい
まず、サイバーセキュリティに関連する職種には、主に以下の5つが挙げられます。
【サイバーセキュリティ業界の職種5つ】
① システム管理者
② サイバーフォレンジック・アナリスト
③ インシデント・レスポンダー
④ セキュリティエンジニア
⑤ ペネトレーション・テスター
それぞれの職種で必須となる、もしくは必須ではないものの学んでおくと後々活かすことのできるれる学問の分野は異なります。前述の「サイバーセキュリティ業界におけるキャリアの歩み方【5つの職種と必要なスキルも徹底解説】」の記事では、これら5つの業種の具体的な仕事内容を含め、それぞれのキャリアをスタートさせるために必要な知識や推奨される学士・修士号について詳しく解説しております。まずはプログラムを選択する前に一度、こちらの記事をご参照ください。
また、大学や大学院の選び方としては、サイバーセキュリティという学問そのものが近年広がり始めたものであるため、日本国内における志望者もこの分野を扱っている大学もまだあまり多くはありません。いわゆる有名大学や歴史のある大学・大学院よりも、技術系の大学やITに特化した比較的新しい大学の方が専門性の高いコースを用意していることもあります。また、社会人であっても通いやすい夜間コースやオンラインコースを提供している大学院も増えているため、大学名にとらわれずに、所属する教授や研究者、そして研究内容などをもとに選ぶことも一つの手です。
サイバーセキュリティ3つの学問とおすすめの大学
それではここからは、サイバーセキュリティ関連のキャリアを目指す方におすすめの大学・大学院やコースを、3つの分野別にご紹介します。
ネットワーク管理
学問の概要
通信制御手順であるプロトコルをめぐっての研究を行うネットワーク管理分野は、厳密にはサイバーセキュリティ分野ではないものの、本格的なサイバーセキュリティ業界でのキャリア形成の足掛かりとなるステップとも言えるシステム管理者を目指す際に習得が推奨される学問です。具体的には、端末など、送信先までのデータ経路の制御(誤りの再送など)、そして画像や音声サービスの質を保つためのタイミングの制御などが含まれます。それに加えて、電子メールやウェブの制御や電子商取引とされるネット上の取引などのアプリケーション間での情報転送制御もカバーしており、これは階層化されている構造の上位の階層での制御手順の研究開発と言えます。
下の階層としては、材料や電気に関わる部分であり、インフラとなり工学部の電気系、そして材料系の学科などで研究されてきました。このハード(針金と電波)であるインフラには、電気系での研究が中心の分野である「通信ネットワーク工学」も対象となります。
課題・トレンド
現在の研究の中心は、上位の階層へと移行してきています。プロトコルをめぐる情報系のネットワーク研究の中に、インフラ研究も含まれるようになってきており、情報系でのこの領域は広まりつつあります。近年では車、ゲーム機器、家電などの多様な装置を携帯電話網も含めたネットワークに繋げその機能を向上させる試みが広がっています。このIoI(Internet of Things)分野の研究が、ネットワークにおける情報伝達を多く、速く、遠くまで省電力で飛ばすためのカギとなっています。
ネットワーク管理が学べるおすすめの大学
- 九州工業大学 情報・通信工学科 情報通信ネットワーク
- 大阪大学 基礎工学部 情報科学科 計算機科学コース/情報科学研究科 情報ネットワーク学専攻
- 立命館大学 情報理工学部 セキュリティ・ネットワーク
- Stanford University Computer Science
- University of California Electrical Engineering & Computer Science
サイバーセキュリティ
学問の概要
サイバーセキュリティの学問では、名前の通りサイバー攻撃から国や企業のネットワークを通した犯罪を防ぎ、個人のプライバシーを守ることを目的としており、セキュリティと省略された名称を用いることもあります。セキュリティの基本技術は「暗号」と「認証」で成り立っており、暗号はハッキングや盗聴などにより情報を盗み見られることを防ぐ技術、認証は情報の伝達された情報が途中で改ざんされていないか確認するための「個人認証」技術と、情報の送信者が通信相手本人であることを確認する「メッセージ認証」技術に分類されます。認証は数字の性質を利用した公開鍵暗号方式が利用され、暗号と認証に加え、それぞれの技術を用いたファイアウォール、不正侵入検知・防御、そしてウイルス検知などの重要な防御技術です。
課題・トレンド
現在の一番の課題としては、ハッカーが被害者に身代金を求めるランサムと呼ばれる「暗号化ウイルス恐喝」への対処と言えます。このランサムウェアに代表されるような、次から次へと発生する、巧妙さが増した攻撃への予防法の構築が求められています。
サイバーセキュリティが学べるおすすめの大学
- 電気通信大学 情報理工学域 Ⅱ類(融合系) セキュリティ情報学プログラム
- 北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 先端科学技術専攻 セキュリティ・ネットワーク領域
- 長崎県立大学 情報システム学部 情報セキュリティ学科
- Goethe University Frankfurt Information Systems and Information Economics(独)
- Catholic University of Leuven Computer Science (ベルギー)
情報科学
学問の概要
情報科学とは、「情報」を工学的な観点から追求する学問です。大学や大学院の学部では、情報による社会の変革などを研究テーマとする文系の情報系の学部と、工学系でプログラムやコンピューターを構成するハードウェアやソフトウェアについて学習する理系に属する情報学部に分かれます。この理系の情報学は工学部や理工学部から枝分かれした学科として設置されている場合が多く、実験やプログラミング演習を必須科目としているところが多くなっています。
課題・トレンド
情報科学技術は、今後の様々な社会的な課題の達成のために科学技術が貢献していく上で重要な鍵を握る共通基盤的な技術であり、これまで以上に高度な役割が期待されることとなっています。社会的に重要な課題の達成に向け、これからの情報科学技術の活用には以下が求められています。
- 効果的かつ効率的な情報収集・情報集約・情報統合・情報管理・情報分析・情報流通・情報共有システムの高度化と、的確な科学的分析・解明・予測の高度化
- 課題達成に役立つ方向でのITシステム及びITを組み込んだ技術の高機能化
- ITシステムの超低消費電力化(グリーン化)
- ITシステムのディペンダビリティ(災害等に強いシステム)の向上
情報科学が学べるおすすめの大学
- 東京大学 理学部 情報科学科
- 慶應義塾大学 理工学部 情報工学科
- 京都大学 工学部 情報学科
- 早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科
- 明治大学 情報コミュニケーション
- University of Bristol Computer Science(英)
また、この他、セキュリティ専門特化の情報セキュリティ大学院大学(セキュリティ専門特化なので学部はありません)や、東京電機大学(未来科学部情報メディア学部 セキュリティとネットワーク)、サイバー大学(IT総合学部 テクノロジーコース)もセキュリティ全般の研究に強い大学コースとして有名です。
<参考> 社会人の方は・・・「職業実践力育成プログラム」(BP)認定制度がおすすめ
平成27年3月に開かれた、教育再生実行会議『「学び続ける」社会,全員参加型社会,地方創生を実現する教育の在り方について(第六次提言)』を受けて,大学・大学院・短期大学・高等専門学校におけるプログラムの受講を通じた社会人の職業に必要な能力の向上を図る機会の拡大を目的として,大学等における社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム」(BP)として文部科学大臣が認定することなりました。これにより、社会人の学び直しにおける選択肢の可視化、大学等におけるプログラムの魅力向上、そして企業等の理解増進を図り、厚生労働省の教育訓練給付制度とも連携し、社会人の学び直しを推進しています。
職業実践力育成プログラム(BP)認定制度利用のメリット
この職業実践力育成プログラム(BP)認定制度を利用してサイバーセキュリティを学ぶメリットとして、以下が挙げられます。
- 体系立てられた大学等のカリキュラムを受講することにより、対象とする職種に必要な能力などをしっかりと修得することができる。
- 教育訓練給付金やキャリア形成促進助成金を活用することにより、受講者・企業に対し、受講料等の一部が支給される。
職業実践力育成プログラム(サイバーセキュリティ分野)の一例
東京電機大学 (国際化サイバーセキュリティ学特別コース)
【概要・目的】
ICTシステム管理者・開発者やサイバーセキュリティ技術者等を対象に、サイバーセキュリティの技術だけでなく、法律や倫理等の関連する分野の教育を行い、高度な専門家を養成
【プログラムの特徴】
サイバーセキュリティに関する法・倫理、インシデント対応、サイバーディフェンス等の科目で構成され、関連企業の実務家による授業、グループワークや実践演習などを実施
【対象とする職業分野】 ICTシステム管理者・開発者等
【受講期間】 1年
【社会人の受講しやすい工夫】 夜間・週末開講、長期履修可
【連携先(企業・団体等)】
セキュリティ対策推進協議会、三井物産セキュアディレクション(株)、
NTT西日本(株)、情報セキュリティ大学院大学等
サイバーセキュリティ分野でのキャリアならご相談ください
ITに関しては進化のスピードが早く、それに合わせてサイバー攻撃も巧妙になっています。今後、企業のセキュリティ対策の意識は高くなる一方でしょう。それに比例して、サイバーセキュリティ関連の職への需要も引き続き増えると考えられます。こちらで紹介したようにサイバーセキュリティ分野でキャリアを積むことに興味を持ち始めた方は、習得したい学問のエリアやご自身の社会人経験の有無に関わらず、学ぶ機会は多々あります。是非こちらの記事を参考に、比較検討してみてください。
弊社ではサイバーセキュリティ分野で働くことを目指す方へのアドバイスも行っております。また、業界の展望や他業界との比較など、各種ご相談も随時受け付けております。サイバーセキュリティ領域のスペシャリストをお探しの方、また当領域でキャリアアップの機会をお探しの方は以下のフォームからお問い合わせください。