
前回の記事では、社会信用スコアの一種であるジーマクレジット(芝麻信用)が中国で急速に普及した理由について解説しました。日本においても、みずほ銀行とソフトバンクの合弁会社であるJ.Score、Yahoo!ジャパン、NTT docomo、LINE、メルカリ、クラウドワークスなど様々な企業が信用スコアサービスの提供を始めており、今後ほかの企業の参入も予測されます。日本で信用スコアは今後社会に浸透していくのでしょうか? また、社会にどのような変化をもたらすのでしょうか?
信用スコアの目的は様々
信用スコアサービスとひとえに言っても、各企業が展開するサービスの目的は異なります。現在日本で展開されている主なサービスを大まかに分類すると、個人向けの融資を目的とした信用スコアの提供を行うのがJ.ScoreやNTT docomo、LINEであり、一方Yahoo!ジャパンのサービスは購買履歴や連携アプリ内での行動を基にスコアの高い層に向けた付加的なサービスの提供を主なスコア利用の目的としています。
また、ユーザー間の取引の円滑化に軸を置いているのがメルカリやクラウドワークスが提供する信用スコアサービスです。取引相手の信用を事前に把握できることに加えて、スコアに基づいて売上金や報酬の前払いサービスを受けることが可能です。
中国で広く普及しているジーマクレジットはと言うと、上述の全ての要素を1つのサービスで網羅しています。これはジーマクレジットを展開するアント・フィナンシャルがアリババの系列会社であり、アリババグループがありとあらゆるビジネスを展開し、顧客に関する膨大なデータを入手することが可能だからこそ成り立っているモデルだと言うことができます。
サービスの乱立が仇となっている日本
一方日本ではここ数年で多くの企業が信用スコア事業へと参入し、目的もそれぞれに異なる数多くのスコアリングサービスが乱立しています。現在の状況は、企業にとっては信ぴょう性の高いスコアリングを行うためのデータが散り散りになってしまっているというデメリットがあると同時に、ユーザー側にとってもどのサービスを使うべきなのか混乱したり、複数のサービスを目的ごとに使い分ける煩雑さが生まれたりと、選択肢の多さが信用スコア普及において仇となっている状況が見受けられます。
この状況は信用スコアが普及するための前提となるキャッシュレス化においても同様です。サービスの乱立によって、消費者側は選択肢が多すぎることで利便性を感じづらく、また店舗側にとっても導入コストがかさむため、双方にとってキャッシュレス化のメリットが明確ではありません。
今後信用スコアの普及とその根底となるキャッシュレス社会を推進していくためには、現在乱立しているサービス間で提携や合併などを行い、実際にサービスを利用するユーザーにとっての利便性を高めていく必要があるでしょう。
個人情報提供に対する国民の認識の違い
では、ユーザーの利便性が高まって今よりもキャッシュレス決済の比率が上がれば、日本でも信用スコアは爆発的に普及し、近い将来日本の社会インフラの一端を担うようになるのでしょうか? この点について考えるとき、中国と日本の社会の違いに目を向ける必要があります。
大きな違いとして挙げられるのは、前回の記事でも言及した、個人情報やプライバシーへの考え方の違いです。中国のプライバシーに関する現状を考える際、信用スコアシステム以上に公共スペースに設置されている監視カメラに言及する必要があるでしょう。国際的な調査会社であるHISマークイットによると、現在中国国内には街角や建造物などいたるところに約1億7600万台の監視カメラが設置されており、人々の生活の大半は常に追跡可能な状況にあります。「監視社会」という文字がよぎり危機感を抱きかねない状況ですが、犯罪率の低下につながるのであれば構わないという考え方の人が多いのも事実です。
このようにそもそも個人のプライバシーを保つことが難しい社会にあるという状況もあいまって、信用スコアについても、プライバシーを守ることよりも個人情報を提供することで取引の安全や日常生活における利便性が高まることに重きを置く風潮が見られます。
一方日本では状況は大きく異なり、個人情報やプライバシーは守られるべきものという価値観が強く、利便性と引き換えに個人情報を提供することを選ぶ人は決して多くありません。信用スコアの算出のために自分の意図しないところでデータが利用される可能性があるとなるとなおさらです。
中国のテクノロジー革命は社会のあり方にすら変化をもたらしましたが、これは政治的、社会的な背景も含めて様々な要因が重なった結果起きたものであり、信用スコアの爆発的な普及についても同様のことが言えます。仮に日本で中国と同様のキャッシュレス基盤やテクノロジー、また信用スコアサービスプロバイダーなどの基盤が整ったとしても、現在中国でみられるほどの普及は難しいと考えられます。
付加サービスとしての信用スコア
とはいえ、日本においても信用スコアを用いることで既存のサービスの利便性を高めていくことは大いに可能です。日本でもAirbnbやシェアサイクルなどの利用者が増えシェアリングエコノミーが発展していく中で、ユーザーへの優待や取引のトラブル防止、またユーザーの利用マナー向上のために信用スコアを活用することができれば、プラットフォームを提供する側にとっても、ユーザー側にとっても非常に大きな利益となり得ます。また、お堅いイメージのある金融機関にとっても、信用スコアサービスを通じてモバイル端末での融資や返済システムを確立させることができれば、若年層の顧客を増やすことにつながります。
中国のトレンドを見てキャッシュレスの次は信用スコア、と闇雲に飛びつくのではなく、テクノロジーを用いてより良い顧客体験を提供し、ひいては便利な社会を形作っていくための施策を打ち出すことが今後各企業に求められるでしょう。
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