
CB Insightが2021年末に発表した「State of Venture」によると、フィンテック分野で事業を展開するスタートアップ企業が2021年に調達した資金総額は132憶ドルで、世界の投資金額の21%を占めました。これは前年と比較して247%の増加となり、ユニコーン企業の4社に1社はフィンテック企業ということになります。2022年に入ってからも、フランス発のオンラインバンク「Qonto」がユニコーン企業入りするなど、特に欧州において、ローカルな中小規模のビジネスの海外展開をサポートするフィンテックサービスの誕生や企業のユニコーン入りが相次いでいます。
ユニコーン企業とは?
ユニコーン企業とは、カウボーイ・ベンチャーズのリー氏が2013年に作った用語で、一般的に「起業10年以内で評価額が10億ドル(約 1,158億円)を超える未上場のベンチャー企業」のことを指します。2013年当初、ユニコーン企業は珍しい存在でしたが、2021年には一年で517社が新たにユニコーン企業入りし、2021年12月時点で合計925社のユニコーン企業が世界中に存在しています(CB Insight)。
注目のフィンテックユニコーン企業 8社【2022年】
ここからは、近年急増するフィンテックユニコーン企業の中から、特に2022年以降の成長が期待されている企業を8つ厳選してご紹介します。
① Stripe(アメリカ)
現在最も勢いのあるフィンテックユニコーン企業の一つとして挙げられるのが、米国のサンフランシスコとアイルランドのダブリンに本社を置き、20か国で数百万社のユーザー企業を抱えるStripeです。オンラインショッピング向けに世界規模から決済を受け付けられるインフラを構築し、欧米を中心にMicrosoftやAmazonなどの大企業にサービスを提供しています。
先日Apple社によって、iPhoneが決済端末になる「Tap to Pay」サービスの展開が発表され、2022年後半以降、決済プラットフォームやアプリケーション開発者が自社のiOSアプリケーションにTap to Payを統合し、決済オプションとしてユーザー企業に提供できるよう開発が進められていることが明らかになりました。
Stripeは自社の顧客企業に対してTap to Pay on iPhoneを提供する最初の決済プラットフォームとなることでも注目されており、Tap to Pay対応開発キット「Stripe Terminal SDK」は今春から米国で提供されることが予定されています。
② Robinhood(アメリカ)
ミレニアム世代向け金融サービスを手掛けるフィンテックスタートアップとして注目を集めているRobinhood。近年は若い世代にとっても老後に備えるための貯金や投資が当たり前となりつつありますが、Robinhoodはこうした世代をターゲットとした投資アプリを提供することで、市場の動向に影響起こすほどの注目を集めています。ユーザー数に関しても、2016年の100万人から2018年の600万人、そして2020年5月の1,300万人へと急速に成長を見せており、この人気の背景には、そのシンプルで分かりやすいデザインと、手数料無料のサービスが要因となっていると見られています。
Robinhoodは多数のユーザーから受け入れられた点を踏まえ、更なるサービスの拡大を目的として大型の資金調達も行ってきました。2020年8月には2億ドルの投資を受け入れ、その評価額は112億ドルとなっており、今後も更なる成長が期待されるフィンテックユニコーン企業の一つとして注目を集めています。
③ Klarna(スウェーデン)
欧米を中心として、近年は世界中でBNPL(後払い決済)サービスが急成長しており、これらのサービスを提供するユニコーン企業の誕生が相次いでいます。KlarnaもBNPLサービスを提供する、スウェーデン発のフィンテックユニコーン企業です。百貨店のMacy'sの衣類からオンラインマーケットプレイスEtsyの小物まで、あらゆるアイテムを分割払いで購入可能にする、クレジットカードに代わる決済サービスとして人気を博しています。現在は欧州と米国を中心に事業を展開しており、17か国で9,000万人以上の顧客を擁しています。2021年末には前述のStripeと手を組み、オンライン決済インフラであるStripeをKlarnaユーザー後払い決済に連携させることを発表しました。決済のパフォーマンスを大幅に向上させ、オンラインの消費行動を成長させることを目的としたこの新たなサービスも後押しとなり、更なる規模の拡大が期待されています。
BNPL(後払い決済)サービスが拡大を続けている背景には、コロナ禍によるオンライン決済への需要の高まりと収入減の傾向や、小売りにとって顧客の増加や購入率アップに繋がる点、そしてミレニアル世代(1981年~1996年生まれ)の若者層におけるクレジットカード利用の減少など、様々な要因が挙げられます。このような後払い市場の成長とそれに伴うスタートアップ同士の競争が激化することが予想されています。
④ PayPal(アメリカ)
パンデミックの影響でEコマースの利用が急増する中、PayPalはここ2年で1億2,000万人の新規顧客を増やし、総アカウント数は4億2,600万件に達しています。日本国内においてPayPalはP2P(個人間)送金のサービスを提供していないというデメリットがありましたが、昨年9月にPaydiを買収したことにより、BNPL(今買って、後で払う)サービスという非クレジットカードのオンライン決済領域に参入することにも成功しました。
一方、2021年に同社が実施した過去最大のインセンティブ付き顧客獲得プログラムは、多くの悪用事例を生み出す結果となり、2021年第4四半期の決済発表では代表のジョン・レイニー氏が不正に作成されたと思われる450万件のアカウントの閉鎖を発表しています。パンデミックが始まって以降フィンテックの詐欺問題は拡大を続けており、サイバー犯罪の手口もより巧みな戦術を駆使されたものへと変化していることからも、フィンテック企業はより詐欺防止対策に力を入れること、またインセンティブ目的で作成された後使用されていないアカウントを定期的に調査することが求められています。
⑤ Block(アメリカ)
Block(元Square)はTwitter社のCEOを務めたジャック・ドーシー氏が創業したモバイル決済サービスで、2013年に三井住友カードと業務提携した後、アメリカから日本に上陸しました。2022年1月からは日本交通のタクシーにおいても主要サービスであるSquareの導入が開始されるなどサービスの更なる拡大が見込まれており、その背景には導入にかかるコストや手間の少なさが挙げられます。利用するために必要なものはスマートフォンやタブレット端末のみで、これらを手の平サイズの専用ICリーダー「Squareリーダー」に接続するだけでクレジットカード決済を行うことができます。早くて申し込み当日からカード決済が可能であり、VISA、JCB、Master Card、American Express、Diners Clubs、Discoverの主要6ブランドのカード決済に対応している点も大きなポイントです。
今後も様々な分野において導入が進むことが期待されているSquareですが、前述のAppleのTap to Pay はこのSquareの決済サービスの対抗サービスとも言われています。Tap to PayがSquareに与える短期的なインパクトは大きくないと考えられていますが、今後市場拡大に伴い競合となる可能性もあり、Squareの今後の動向にも注目が集まります。
⑥ Liquid(日本)
Liquidはフィンテックユニコーン企業唯一の日本企業です。暗号資産・仮想通貨交換業者として2017年9月に日本で初めて金融庁の登録を受けた企業のひとつで、生体認証を活用することで、世界中のユーザーが簡単かつ安全に使えるサービスの実現を目指しています。昨年10月からはネット上での契約や口座開設時の本人確認手続きにおいて必要な身分確認をオンラインで行うことができるサービス「LIQUID eKYC」を、また2022年1月からはUXとセキュリティを追求した認証プラットフォーム「LIQUID Auth」の提供を開始しました。2022年2月にはマルチ機能のリリースを発表し、暗号通貨ソラナ(SOL)とイーサリアム(ETH)を入出金時に利用できるよう取り扱いを開始し、国内初の両銘柄の取り扱いとして大きな話題となりました。
⑦ Paytm(インド)
Paytmは2010年にVijay Shekhar Sharma氏によって設立されたOne97という会社が基盤となっており、その後2011年にシャルマ氏がデジタルペイメントへの分野に新規投資して、デジタルウォレットを中心とした現在の事業が誕生しました。2015年にはアリババ、アントファイナンシャル連合から6億8000万ドルもの出資を受け事業を急速に拡張し、事実上中国のアリババの子会社として、すでに中国国内で成功していたアリペイのQRコード決済を取り入れた「インド版アリペイ」とも言えるデジタル決済サービスを普及させました。その後もインドの市場における紙幣不足によるデジタルウォレット決済の増加が追い風となり、3億人のユーザーを有しながら、現在も急速に知名度を上げています。2017年5月には、ソフトバンクが14億ドルをPaytmに出資しており、世界的に注目されるインド発のデジタル決済会社となっています。
⑧ qlub(アラブ首長国連邦)
qlubはレストランなど飲食店の来店客がアプリのダウンロードやユーザー登録をすることなくQRコードをスマートフォンなどで読み取り、セルフで会計を済ませることのできる決済テクノロジーサービスを提供しており、ドバイ・サウジアラビア・インドなどにおいてサービスを開始し、今後も営業エリアの拡大を予定しています。このqlubでは決済プロセスに関わる人件費や飲食店での滞在時間を大幅に短縮でき、実際にサービスを提供している地域では画期的に利便性の高い顧客体験の提供によりリピーターの増加や口コミサイトにおける高い評価を実現しています。これらの実績に基いて日本国内での導入も期待されています。
先日のシードラウンド(創業前または創業後間もない成長ステージにある企業が行う資金調達のこと)でも大手フードテック企業Cherry Venturesや Point Nine Capitalの経営者などを含め、多くの投資家から約2億円の資金調達を達成し、今後の成長が期待されるフィンテックユニコーン企業の一つです。
新卒・未経験からフィンテック企業に転職するコツ
現在、世界のユニコーン企業の中でも多くを占めるフィンテック企業ですが、フィンテック企業への転職は必要な知識やスキルを身に着けていれば、新卒や未経験からでも不可能ではありません。また、「【異業種転職】成長を続けるフィンテック、どの業界からの転職が多い?」の記事でもご紹介したように、業界未経験だからこそのアプローチで、フィンテックに関連した企業への転職が可能となります。
フィンテック企業へ転職する具体的な方法としては、
- 企業のサイトなどを通じて直接応募
- 企業に勤める知人からの紹介
- 求人サイトなどから応募
- 転職エージェントを利用
などが挙げられます。
転職エージェント・サイトを利用することで、「自分では見つけることのできない求人や情報にアクセスできる」「条件の交渉や辞退など、直接伝えづらいことを代わりに伝えてもらえる」「転職後も定期的な情報交換ができる」「これらのサービスが全て無料で受けられる」などが挙げられます。
当社でもフィンテック関連企業への転職を目指す方へのアドバイスを行っております。また、業界の展望や他業界との比較など、各種ご相談も随時受け付けております。フィンテック領域のスペシャリストをお探しの方、また当領域における企業でのキャリアアップの機会をお探しの方は、お気軽に以下のフォームよりお問い合わせください。